現状を打破する変革人材の採用・育成のすすめ(前編)
2009年1月23日
【現状を打破する変革人材の採用・育成のすすめ】
(株式会社ジョブウェブ キャリア支援事業部 事業部長 福井信英)
※福井のコラムは、東洋経済オンラインにて連載中です。
※福井のコラムは、東洋経済オンラインにて連載中です。
昨今のニュースによれば、上場企業だけでも6000人を超える正社員の解雇が行われるらしい。ほんの2年前-09卒採用シーズンまでは学生の売り手市場はバブル期の水準を越える、と騒いでいたのが嘘のようだ。アメリカ発の金融危機は、実体経済にも悪影響を与え、当然の因果として雇用市場にも大打撃となっている。この影響は採用規模の縮小に留まらず、国内企業の人材戦略及び、教育機関の人材教育のあり方にも大きな変化をもたらすに違いない。
今回のコラムでは、経営環境の変化を踏まえ、今後どのような採用方針を企業が取るべきか、考えていきたい。
「バブル期以来の学生売り手市場」からわずか1年で「就職氷河期」へと変化した今、
「もう、いい加減に景気に振り回される採用活動はやめにしたい」
と感じている経営者や人事責任者の皆様も多いのではないだろうか。
一度採用したからには、雇用の責任が発生する。景気が良くなったら人員を増やし、景気が悪くなったら解雇、というように景気に合わせて簡単に雇用調整が行えないことは誰でも知っている。
業績悪化から涙を飲んで内定取り消しなどをしてしまった日には、社会的な批判の矢面に立たなければならなくなる。好きで内定取り消しを行う経営者や人事担当者なんていない。私が知っている人事の方は、内定を取り消してしまった学生の就職先探しに東奔西走、最後には自分自身が良心の呵責に耐えかねて辞めてしまわれた方ばかりだ。
人件費を流動的なものにするために、派遣社員を受け入れる企業がここ4~5年で急拡大したが、不景気になると真っ先に解雇の対象となるのが派遣社員でもある。これら非正社員の扱いは社会問題として認知されてきているし、派遣社員の雇用に関してもこれまで以上に慎重に行っていく必要が出てきそうだ。
雇用される立場の我々は、「いつ、どのような経営環境であっても」働き口があるように能力・人格を磨き続けねばならないし、一方、雇用する立場の人間としては、「いつ、どのような経営環境であっても」利益を生み出す仕組みを作り続けることができる人材「だけ」を採用するよう、採用―教育(配属)―評価といった一連の社内制度を整えていかなければならないだろう。
「いつ、どのような経営環境であっても利益を生み出す仕組みを作り上げることができる人材」のことを、私は「変革人材」とよんでいるが、これからの人事は「変革人材」を採用し、育て、評価することに全力を尽くさねばならないと思う。そして、教育機関(弊社も含む)は変革人材を生み出すことに一層力を尽くさねばならない。
ほんの3年前のことだが、10数人の会社であるにもかかわらず、新卒人材を20名採用するというベンチャー企業の経営者から仕事の相談を受けた。確かに業績は伸びていた。社長の言葉を借りると「売れる仕組み」ができたので、後は力のある営業担当者を採用すれば、一人当たり2500万の売上と1000万の粗利を生み出せる。優秀な人材はいくらいてもいい、という話だった。
私は「20人ではなく、5人、せめて10人であれば仕事を受けます」と言い、結果的にその企業は、採用人数を5人と再設定したので、仕事をお受けすることにした。
この社長の当初の発想は、既に売れる仕組みはあるので、あとは営業力のある社員を増やせばいいという考えに基づいた採用計画だった。幸いにもこの企業の場合は、本来ベンチャー企業が取るべき、「少数精鋭」の採用活動に戻すことができたと思っている。もし、当初計画にこだわり20人採用のままで進めていたら、今頃は採用した多くの人材を育てる間もなく解雇(あるいは自主退職)の対象として見なければいけなくなったかもしれない。
企業の「売れる仕組み」も「景気」も常に変化するものである。変化の少ない時代であればともかく、めまぐるしく経営環境が変わる現在、「今の売れる仕組み」を元に、採用―教育―評価といった、人事システムを考えるのでは足りなくなってきている。
乱暴ではあるが、仮に
- 言われたことをただこなすだけの人材を「作業人材」
- 既存の「売れる仕組み」の中で効果的に力を発揮する人材を「足し算人材」
- 既存の「売れる仕組み」を強化し、全員の力を高めることのできる人材を「かけ算人材」
- 「足し算orかけ算人材」の能力に加え、新たな売れる仕組みを創り出すことのできる人材を「変革人材」
とする場合、数年後の近い将来、多くの人材を変革人材に育てあげることを前提に、採用活動を行う必要がある。
これまでは、「売れる営業担当者」「できるシステムエンジニア」といった足し算人材、あるいは、しっかりした経理担当者、力のある広報担当者といった「かけ算人材」の素質があれば、ポテンシャル採用という名で、採用していた。もしかしたら、言われたことをこなすだけの作業人材であっても、採用していたかもしれない。
しかし、これからはそれでは生き抜いていけない時代に突入する。人数を増やして売上を増やすという発想が頭の中にある限り、「経営環境が良いときに採用人数を増やし、悪くなると雇用を削減する。」という雇用の呪縛から逃れることができない。
これからの採用活動は、少数でもいい、どんな環境下でも新たな「売れる仕組み」を見つけ、形にすることができる「変革人材」としてのポテンシャルを持つ人材だけを採用すべきなのだ。そうすれば、経営環境に一喜一憂することなく、もう少し長い目で人材採用と育成を考えることができるようになる。この機会に、そういう採用方針に切り替えていくことを提案したい。
新卒で入社した人材が、2年目に新規事業を立ち上げ、3年目の現在は2億円を超えるビジネスに育て上げている、という事例がある。上場企業の中にも、新卒で入社し5年目に事業を立ち上げ、6年目の今年は、売上の3本柱の一角となるまで事業を育て上げた若手社員の事例もある。変革人材が持つ能力と情熱は、外部にコンサルタントを雇うよりも遙かに多くのメリットを自社にもたらしてくれる。経営環境が悪化している現在も、彼らは持ち前の若さと行動力で、企業の主力として新しいビジネスの芽を見つけ、育てていくことだろう。
最後になるが、ウォーリック・モデルという名で知られる、HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)のケーススタディーでは、調査対象企業の多くが、チャンスのあるときでなく、困難な経営環境の下で、経営戦略・人事戦略が明確化されていったと報告されている。もちろん、経営環境の悪化は誰にとっても悩ましい問題だが、来るべき新しい時代に向けて必死に考え、変革を促す呼び水でもある。
現在の環境をピンチではなくチャンスと捉え、自社の人事戦略を今一度、強化・明確化する活動に取り組まれるきっかけとされてはいかがだろうか。
>> 現状を打破する変革人材の採用・育成のすすめ(中編)~変革人材の具体例・特徴 に続く













