内定式において気を付けること
2009年9月29日
10月1日になると多くの企業が内定式をとりおこなう。3時間くらいの短い式もあれば、懇親会を含んだ長丁場のものもある。ウェブ上には内定式を終えた学生を対象にしたアンケートや学生が書いたブログなどもあり、実情を知るに困ることはない。さまざまな情報を読んでいて、ふと疑問に感じることがある。何のために内定式をやっているのか。その狙いは何なのか。誰のための内定式なのか。内定式固有の論理は何なのか。
学生は半年から場合によっては一年くらい就職活動の後に、内定式に臨む。内定式の参加を機に、こんな会社では働きたくないと内定取り消しの連絡を入れてくる学生もいるだろう。あるいは、連絡なしで「消える」学生もいる。企業側はどうか。内定式を「最終選考」の場にしていることころあるようだ。面接だけだと人柄などが分からないから、内定式で「油断」させて、判断しようとする向きもある。
もちろん、このような否定的な側面だけで内定式を理解することはできない。肯定的な側面も多々ある。「社長のスピーチに感動した」「同期候補の人間に会えてよかった」「社会人としての意識が目覚めた」などの感想を持つ学生もいる。「入社候補者の全体的な雰囲気がつかめてよかった」「社長や役員の思いを理解してもらえたようで安心した」と喜ぶ人事担当者もいる。
内定式の目的や使い方は様々だが、ここで今一度、内定式とはそもそも何ぞや、というところを考えてみてはどうだろう。そもそも論を考えるにあたって、押さえておきたいポイントがある。「固有性・独自性・ユニークネス」、いわゆる、わが社ならではの論理を構築し、その論理に基づいて内定式を設計・演出していくわけだ。
では、最初に「そもそも論」を少し。
「ルソー(Rousseau,[1755]1984)の他の人々と一緒に鹿を狩るのか、ひとりで兎を狩るのかという『鹿狩り』の話はよく引用される。もし、全員で鹿を狩るのなら成功するし、誰もが兎一匹よりもたくさんの食料を得ることができる。しかし、もし二人、三人で鹿狩りに出ても間違いなく獲物は取れず、兎一匹でも得たほうがよかったということになる。しがたって、他の人々も行く時だけ鹿狩りに行くだろう。『あすの日の出に、鹿狩りに行こう』というメッセージを口頭で広げることはできるが、もっと有効なコミュニケーションの方法は、集会で一堂に会し、皆で計画を知るようにするだけではなく、ただちに全員が他の人々もその計画を知っていることがわかるようにして、共通認識を形成することである。」
(出典:儀式とは何の役に立つか マイケル・S-Y・チウエ 著 2003年)
(注:下線は筆者による)
上記の引用をご覧になって何を思っただろう。読者の置かれた状況により、様々な解釈は可能だが、ここでは、新卒者採用決定後に行われる内定式とう状況で、この引用が示唆するところを考えてみたい。
内定式とは、儀式である。学生が初めて経験するその企業内での儀式である。企業側にとっては、新入社員候補者と初めて一堂に会する集会である。会社の印象の形成という内定式は、双方にとって入社後に企業活動を進める上で重要な場面でもある。良好な印象形成に失敗してしまうと、その修正コストは配属先が負担することになるので人事にとっては重大だ。
さて、学生と会社にとっての初の集会において、どのような認識を共有できることが、双方にとって価値あることになるのであろうか。あなたは、会社としては「何を」を学生に認識させたいのであろう。印象というものは、一貫性を持って作られるきらいがあるから、注意したい。内定式の案内から、受付、開始までの待ち時間、内定式そのもの、加えて懇親会、内定式後の案内と、学生に対して「わが社で働くことの本質的価値」をいかに伝えられるかが鍵となる。大いなるポジティブな意図を持って設計する価値はある。
さらに深く考えてみたい。内定式に参加する学生は、無意識に2つの判断軸をクロスさせながら会社と、自分にとっての会社に対する価値を認識する。第一の軸は、会社と自分との直接的関係を判断する垂直軸だ。学生自身が個人として内定式参加の経験から判断する会社の価値認識。第二の軸は、水平軸だ。学生同士のコミュニケーションや他の学生の内定式に対する反応を見たときの印象から判断する会社に対する価値認識。
人事担当者であるあなたは、会社に対してどのような認識を形成したいのだろう。他の会社でなはなく「わが社ならではの価値」として認識させたい、それも内定式に参加した学生集団に一律的に認識させたい価値は何だろう。経営陣の人物像だろうか、会社の雰囲気や文化だろうか。
会社としては、当然のことながら、プラス的な価値を認識させたいに違いない。「説明会のときよりも、内定式の方が会社の印象がいい。しっかりと働いていきたい。期待にこたえたい」などの認識が生まれて欲しいと思うはずだ。一般的にはそうだろう。
ただし、学生の認識はプラス面よりもマイナス面の方が生まれやすく、記憶に残りやすいので注意が必要だ。ここで、概略的ではあるが、内定式設計者がついつい見落としてしまいがちな点を、参考までに、紹介したい
1.ストレスを感じさせない環境を整備する
物理的環境を整えるにあたって押さえるべきは、「参加者に環境的なストレス与えない」という点に尽きる。もちろん、このことは、会場設営をする段階で気をつけている人もいるだろう。が、内定者の立場や気持ちになって設営に臨んでいるだろうか。内定式を社内でやるにしろ、外部の会場を使うにしろ、実際に現場に赴いて、自分で見て感じない限り、本当のところは分からない。
人間の印象というのは、当たり前だが、その場の雰囲気や環境に影響されやすい。設営にあっては、会場に大きな窓があるかどうかの確認を第一にすべきだろう。多くの人が閉そく感を嫌うので、はずせないポイントだ。大きな窓は解放感を演出するから、参加者をリラックスさせる効果が狙える。また、会場の広さ、そして壁紙や絨毯などの色遣い、照明状態なども適切な状態のものを選びたい。席やテーブルの配置など、内定式での人の動き(動線)も勘案する必要がある。音楽的な演出も場合によっては、必要かもしれない。
また、学生と役員の物理的な距離にも配慮したい。学生に居眠りをさせない環境にもしたい。安全面を考慮して、非常口の確認し、非常時の対応などについてもレジュメなどに記載し、内定式での事務連絡の段階で知らせると良いだろう。以上のような基本的なことができていなと、学生は環境的なストレスを感じ、会社に対して好印象を持つことができなくなるだろう。いたずらにコストをかける必要はないが、人事部の人間と内定式に参加したことのある新人社員が協力しあえると、「学生目線」で環境を整備することができるだろう。
2.会社側参加者の人選
内定式に参加する会社側の人間の選定は非常に重要だ。これに失敗すると企業の価値は暴落する。人選は慎重にしたい。参加する人物は、経営陣はあたりまえだが、社員においても、高い倫理性と明るい人柄を持つ人が望ましい。性格がよければ穏やかな人も参加させたい。できたら、仕事ができる人がいい。加えて、自己利益獲得という意図がなく、学生に対して親切に接することができる人が理想だ。性根の腐った学生の認識を変えるようなパワーを持った人物がいれば尚よい。
当然のことながら、パワーハラスメントやセクハラ的な振る舞いをする人を参加させてはいけない。人事はこのあたりの情報を持っているのが普通だから、普段通りに考えれば、人選は比較的簡単なはずだ。やっかいなのは、経営陣に「不適切な人物」がいる場合だろう。社内政治やご自身の評価も勘案し、独自に戦略を打つ必要がある。
ちなにみ、なにゆえに、こんなある種、理想的人物像を書くのかというと、私自身が企業研修などで、社員などから聞いたりする機会があるからだ。「内定式で社員の人にしつこくナンパされて困ったので、そこの内定は断りました」「懇親会の席で、酔った社長のセクハラ発言で気持ちが引きました。くだらない人が社長をやっている会社には興味がなかったので内定を断って就職浪人をしました」など、「不適切な人物」に関する話はある。調べてみるとウェブ上にもたくさん出ている。同じ大人として情けない思いがする人もいるのではないか。とはいえ、学生が内定を断るほどに不適切な人物が内定式にいる例は極わずかだと思う。が、あなたの会社の内定式は大丈夫と確信を持っているだろうか。
内定式に呼ぶべき人物像に少し触れたが、「倫理性や人柄、仕事力でバランス良く優れた、そんなベストと思える人材はうちにはいない」という反応もあるのは確かだ。が、いなければ、そのような人物を目指す人間を呼べばよい。研修などでアセスメントをかけたりしている会社は、その情報を使って「適切な人物」を配置すればよい。あるいは、あなた自身がその責を負って人格形成をしていけばよいのだ(ちょっと言いすぎかもしれないが)。それだけの話だ。学生はまだ、社会人としては「子供」なのだ。内定式という社会人となるための儀式の場では、「大人」である企業人が一般的に見て良い大人の姿を見せることも重要だと思うのだがいかがだろう。いずれにしろ、内定者からみて「こんな社会人になってみたい」と思わせる人物を配置することは、内定者をして「この会社で働けることはいいことだ」という認識を作る上で欠かせない要素だろう。
執筆者プロフィール
学生は半年から場合によっては一年くらい就職活動の後に、内定式に臨む。内定式の参加を機に、こんな会社では働きたくないと内定取り消しの連絡を入れてくる学生もいるだろう。あるいは、連絡なしで「消える」学生もいる。企業側はどうか。内定式を「最終選考」の場にしていることころあるようだ。面接だけだと人柄などが分からないから、内定式で「油断」させて、判断しようとする向きもある。
もちろん、このような否定的な側面だけで内定式を理解することはできない。肯定的な側面も多々ある。「社長のスピーチに感動した」「同期候補の人間に会えてよかった」「社会人としての意識が目覚めた」などの感想を持つ学生もいる。「入社候補者の全体的な雰囲気がつかめてよかった」「社長や役員の思いを理解してもらえたようで安心した」と喜ぶ人事担当者もいる。
内定式の目的や使い方は様々だが、ここで今一度、内定式とはそもそも何ぞや、というところを考えてみてはどうだろう。そもそも論を考えるにあたって、押さえておきたいポイントがある。「固有性・独自性・ユニークネス」、いわゆる、わが社ならではの論理を構築し、その論理に基づいて内定式を設計・演出していくわけだ。
では、最初に「そもそも論」を少し。
「ルソー(Rousseau,[1755]1984)の他の人々と一緒に鹿を狩るのか、ひとりで兎を狩るのかという『鹿狩り』の話はよく引用される。もし、全員で鹿を狩るのなら成功するし、誰もが兎一匹よりもたくさんの食料を得ることができる。しかし、もし二人、三人で鹿狩りに出ても間違いなく獲物は取れず、兎一匹でも得たほうがよかったということになる。しがたって、他の人々も行く時だけ鹿狩りに行くだろう。『あすの日の出に、鹿狩りに行こう』というメッセージを口頭で広げることはできるが、もっと有効なコミュニケーションの方法は、集会で一堂に会し、皆で計画を知るようにするだけではなく、ただちに全員が他の人々もその計画を知っていることがわかるようにして、共通認識を形成することである。」
(出典:儀式とは何の役に立つか マイケル・S-Y・チウエ 著 2003年)
(注:下線は筆者による)
上記の引用をご覧になって何を思っただろう。読者の置かれた状況により、様々な解釈は可能だが、ここでは、新卒者採用決定後に行われる内定式とう状況で、この引用が示唆するところを考えてみたい。
内定式とは、儀式である。学生が初めて経験するその企業内での儀式である。企業側にとっては、新入社員候補者と初めて一堂に会する集会である。会社の印象の形成という内定式は、双方にとって入社後に企業活動を進める上で重要な場面でもある。良好な印象形成に失敗してしまうと、その修正コストは配属先が負担することになるので人事にとっては重大だ。
さて、学生と会社にとっての初の集会において、どのような認識を共有できることが、双方にとって価値あることになるのであろうか。あなたは、会社としては「何を」を学生に認識させたいのであろう。印象というものは、一貫性を持って作られるきらいがあるから、注意したい。内定式の案内から、受付、開始までの待ち時間、内定式そのもの、加えて懇親会、内定式後の案内と、学生に対して「わが社で働くことの本質的価値」をいかに伝えられるかが鍵となる。大いなるポジティブな意図を持って設計する価値はある。
さらに深く考えてみたい。内定式に参加する学生は、無意識に2つの判断軸をクロスさせながら会社と、自分にとっての会社に対する価値を認識する。第一の軸は、会社と自分との直接的関係を判断する垂直軸だ。学生自身が個人として内定式参加の経験から判断する会社の価値認識。第二の軸は、水平軸だ。学生同士のコミュニケーションや他の学生の内定式に対する反応を見たときの印象から判断する会社に対する価値認識。
人事担当者であるあなたは、会社に対してどのような認識を形成したいのだろう。他の会社でなはなく「わが社ならではの価値」として認識させたい、それも内定式に参加した学生集団に一律的に認識させたい価値は何だろう。経営陣の人物像だろうか、会社の雰囲気や文化だろうか。
会社としては、当然のことながら、プラス的な価値を認識させたいに違いない。「説明会のときよりも、内定式の方が会社の印象がいい。しっかりと働いていきたい。期待にこたえたい」などの認識が生まれて欲しいと思うはずだ。一般的にはそうだろう。
ただし、学生の認識はプラス面よりもマイナス面の方が生まれやすく、記憶に残りやすいので注意が必要だ。ここで、概略的ではあるが、内定式設計者がついつい見落としてしまいがちな点を、参考までに、紹介したい
1.ストレスを感じさせない環境を整備する
物理的環境を整えるにあたって押さえるべきは、「参加者に環境的なストレス与えない」という点に尽きる。もちろん、このことは、会場設営をする段階で気をつけている人もいるだろう。が、内定者の立場や気持ちになって設営に臨んでいるだろうか。内定式を社内でやるにしろ、外部の会場を使うにしろ、実際に現場に赴いて、自分で見て感じない限り、本当のところは分からない。
人間の印象というのは、当たり前だが、その場の雰囲気や環境に影響されやすい。設営にあっては、会場に大きな窓があるかどうかの確認を第一にすべきだろう。多くの人が閉そく感を嫌うので、はずせないポイントだ。大きな窓は解放感を演出するから、参加者をリラックスさせる効果が狙える。また、会場の広さ、そして壁紙や絨毯などの色遣い、照明状態なども適切な状態のものを選びたい。席やテーブルの配置など、内定式での人の動き(動線)も勘案する必要がある。音楽的な演出も場合によっては、必要かもしれない。
また、学生と役員の物理的な距離にも配慮したい。学生に居眠りをさせない環境にもしたい。安全面を考慮して、非常口の確認し、非常時の対応などについてもレジュメなどに記載し、内定式での事務連絡の段階で知らせると良いだろう。以上のような基本的なことができていなと、学生は環境的なストレスを感じ、会社に対して好印象を持つことができなくなるだろう。いたずらにコストをかける必要はないが、人事部の人間と内定式に参加したことのある新人社員が協力しあえると、「学生目線」で環境を整備することができるだろう。
2.会社側参加者の人選
内定式に参加する会社側の人間の選定は非常に重要だ。これに失敗すると企業の価値は暴落する。人選は慎重にしたい。参加する人物は、経営陣はあたりまえだが、社員においても、高い倫理性と明るい人柄を持つ人が望ましい。性格がよければ穏やかな人も参加させたい。できたら、仕事ができる人がいい。加えて、自己利益獲得という意図がなく、学生に対して親切に接することができる人が理想だ。性根の腐った学生の認識を変えるようなパワーを持った人物がいれば尚よい。
当然のことながら、パワーハラスメントやセクハラ的な振る舞いをする人を参加させてはいけない。人事はこのあたりの情報を持っているのが普通だから、普段通りに考えれば、人選は比較的簡単なはずだ。やっかいなのは、経営陣に「不適切な人物」がいる場合だろう。社内政治やご自身の評価も勘案し、独自に戦略を打つ必要がある。
ちなにみ、なにゆえに、こんなある種、理想的人物像を書くのかというと、私自身が企業研修などで、社員などから聞いたりする機会があるからだ。「内定式で社員の人にしつこくナンパされて困ったので、そこの内定は断りました」「懇親会の席で、酔った社長のセクハラ発言で気持ちが引きました。くだらない人が社長をやっている会社には興味がなかったので内定を断って就職浪人をしました」など、「不適切な人物」に関する話はある。調べてみるとウェブ上にもたくさん出ている。同じ大人として情けない思いがする人もいるのではないか。とはいえ、学生が内定を断るほどに不適切な人物が内定式にいる例は極わずかだと思う。が、あなたの会社の内定式は大丈夫と確信を持っているだろうか。
内定式に呼ぶべき人物像に少し触れたが、「倫理性や人柄、仕事力でバランス良く優れた、そんなベストと思える人材はうちにはいない」という反応もあるのは確かだ。が、いなければ、そのような人物を目指す人間を呼べばよい。研修などでアセスメントをかけたりしている会社は、その情報を使って「適切な人物」を配置すればよい。あるいは、あなた自身がその責を負って人格形成をしていけばよいのだ(ちょっと言いすぎかもしれないが)。それだけの話だ。学生はまだ、社会人としては「子供」なのだ。内定式という社会人となるための儀式の場では、「大人」である企業人が一般的に見て良い大人の姿を見せることも重要だと思うのだがいかがだろう。いずれにしろ、内定者からみて「こんな社会人になってみたい」と思わせる人物を配置することは、内定者をして「この会社で働けることはいいことだ」という認識を作る上で欠かせない要素だろう。
執筆者プロフィール
| 古波倉 正嗣(こはくらまさつぐ) ヒューマンキャピタル・イニシアティヴ代表 ヒューマンキャピタル・イニシアティヴ代表、(株)マンゴーズ シニアアドバイザー、国際ディベート学会公認 ディベートトレーナー。現在、企業、官公庁研修所、自治体等 において、「思考力強化/コミュニケーション力強化」をテーマに、問題解決手法、論理的思考法、ディベート(日本語/英語)、プレゼンテーション(日本語/英語)、ビジネスラ イティング(日本語/英語)等、様々なプログラムの開発及び指導を行う。企業研修も多く人事との交流も深い。学生向けの就職活動支援セミナー講師歴は約15年になる。 問い合わせ先: ![]() |














