ずっとまとめようと思い、まとめれずにいたL.S.HartのBOPプロトコルをようやくまとめようと重い腰を上げました笑 今回はHartの「未来をつくる資本主義」(英治出版)とBOPプロトコルの導入から簡単にそのコンセプトをまとめ、次回以降の投稿で具体的なビジネスの進め方などをまとめていきたいと思います。「未来をつくる資本主義」は僕にとってPrahaladの「ネクストマーケット」よりもバイブルに近いものです。今BOPビジネスと言ったら「ネクストマーケット」という感じですが、僕個人的にはこちらの方がこれから重要なのではないかと思っています。
HartはBOPビジネスの最初の論文をPrahaladと共著しています。PrahaladがBOPビジネスの生みの親として有名ですが、僕はPrahaladよりもHartの考え方の方が好きです(もちろん論文や書籍が出版された順番などもあるとは思いますが)。最初のBOPビジネスの潮流が高まった時(これが今日本で起きていることかもしれません)、多くの批判がなされたようですが、中でも最も強いものはBOPをあくまで潜在的巨大市場の「顧客」としてしか認識していないという点に尽きると思います。一回使い切りパックなどを工夫するのはいいが、結局それは貧困層にものを売りつけているだけでしかない。同著からSELCOの社長の警告を引用すると、
「BOPを非常に一方的にしか見ていないことには、ショックを以上のものを覚える…とにかく売れ、BOPに売れ、市場は大きい、どんどん成長する…私の友人が言うように、大勢の人が貧困の中で生き、一握りの人が貧困のおかげで生きている。」
またミシガン大学(Prahaladと同じ大学)からもアニル・カルナニ教授が「ピラミッドの底辺に眠る富という幻想」という論文の中でBOPにビジネスの価値を求めるのは、よく言っても「害のない妄想」、悪く言えば「危険な勘違い」と痛烈に批判しています(同著より)。なぜならば貧困の緩和には貧困層の所得を向上させるしか方法はなく、貧困者が生産者にならなくてはいけないからです。ただ僕個人としては「貧困者」を「顧客」としてみなして、今までの固定観念を取り払い、貧困層に尊厳を与えうる概念を提起したPrahaladは、こうした議論の土台を築いたという意味でやはり偉大であったのだと思います。
Hartはこうした生産者としてのBOPという視点の欠落という批判に同意しています。そしてBOP層を生産者、ビジネスパートナーとして見なすBOPビジネス、ひいては持続可能な多国籍企業の戦略を具体的な方法論を用いて体系化したものがこのBOPプロトコルなのです。下図はプロトコルからの引用です、
Hartの掲げるBOPの新世代はBOP2.0であり、それ以前のBOPを顧客として考えていた(Selling to the Poor)はBOP1.0と言われます。今日本で紹介されたり議論されたりする「BOPビジネス」はどれもBOP1.0であるような気がしています。もちろん日本にいないので日本の風潮に疎いのですが…
BOP2.0はBOPをビジネスの「パートナー」として考えます。BOP1.0がBOP層の声を注意深く聞き、そのニーズを探るという「Deep listening」であったのに対し、2.0では「Deep dialogue」を通して、共有されたコミットメントを重視するなど、BOPが「顧客」から「パートナー」の位置づけになります。BOPビジネス関係で日本で有名な槌屋詩野さんも、こうしたパートナーとしてのBOPビジネスを「彼らの維新に企業がどうかかわっていくか」という考え方が必要なビジネスと言われます。これはこのBOP2.0に根差した視点と言えるでしょう。彼ら自身が維新の担い手であり、チェンジメーカーなのです。
Hartが強調するのは「相互価値の共創(Co-Creating Mutual value)」です。このビジネスに関わる全てのパートナーと共に、全てのパートナーの利益となるようなビジネスを行うことの必要性。BOPコミュニティと平等なパートナーシップを持ち、文化や環境との整合を図った持続可能なビジネス。
BOPプロトコルの導入「A Licence to Imagine」は「未来をつくる資本主義」の考えを象徴する章な気がします。一部プロトコルから引用します。
…we believe the interconnected challenges of addressing poverty and human development and restoring global ecological systems present multinational corporations (MNCs) with a unique opportunity – a “license to imagine,” to re-conceptualize the corporation in a manner that can sustainably serve the diverse needs and values of people across globe.
今世界の抱える問題の中で、貧困問題と環境問題から生じる持続可能性に関する議論は現代社会を理解する上で重要な問題です。貧困者と向き合うのにMNCsに果たせる役目はない、なぜなら「Small is Beautiful」と言われるように、現地に根差した活動しか貧困問題の解決には貢献できないから。また貧困国の成長は地球の持続可能性と相容れない、なぜなら新興途上国、貧困国の60億人が今の先進国水準の生活をしたら地球があと3つか4つ必要だから。Hartはこうしたトレードオフの問いかけを打ち破る役割を企業に与え、企業が世界中の多様なニーズに応えつつ、それを企業にとっての戦略の一つとすることを「未来をつくる資本主義」、ひいてはこのBOPプロトコルの中で説いています。それは企業にとって容易に想像できるものではありません。だからこそ、それを想像するライセンスを得ることが重要であり、それは今なのです。
少し長くなってしまったので、今回はここで切ります。次回以降、BOPプロトコルをまとめつつ、具体的に企業にできるアクションを考察していきたいと思います。まず次回は現地に行く前の準備段階のプロセスをまとめていこうと思います。
こうしたBOP2.0のコンセプトは実はソーシャルビジネスの考えともリンクしていく接合点ともなるのではないかと考えています。もちろんソーシャルビジネス、BOPビジネス、社会起業家などの概念はまだまだ成熟しているものでなく、これからいろいろと再編が起きていくのかなと思います。そしてその再編の中での企業の再定義とは何か。これからも要注目な領域です。

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