今回はBOP市場でマーケティングに取り組む際に抑えておかなければならない要素を、Place(流通)及び、Promotion(販促)の観点から見て行くことにしたい。
BOP市場で効果的に機能する流通、販促の構造を作ろうとした場合、BOP市場の消費者をそのプロセスの中に巻き込む必要が出てくる。この「巻き込む」資質・能力に秀でた人材の確保が、BOP市場でのビジネス展開を成功させるための必要条件だが、「巻き込む」資質・能力を体系的に伸ばすことができるようなプログラムは非常に乏しいのが現状だ。
ファイナンスやマーケティングの知識だけでは当然足りない。コミュニケーションという言葉の範疇におさまるようなものでもない。広義のリーダーシップといえるかもしれないが、「巻き込む」ためには、文化や価値観の多様性への理解や自国や現地の歴史に対する深い洞察などが必要となる。
「巻き込む」ために必要な資質や能力に関しては、後のエントリで深く考察するとして、まずは効果的な流通・販促構造をつくるのに必要な要素を詳しく見ていく。
ブラジルの小売チェーン、カサス・バイアは先進国における同業と異なり、サプライチェーンを合理化し、運転資本を抑えつつ、在庫回転率を上げることをそれほど重要視していない。代わりに大規模な倉庫を持ち、莫大な量の製品を低コストで仕入れることに骨をおっている。低コストで土地を確保出来るという特徴を強みとして活用している好例だ。これは、決められた時間に決められた製品を届けることを可能にしており、顧客サービスの面でも効果的に機能している。
上記は土地という資本を巻き込み強みに変えた例だが、土地以外にも現地の企業や工場、輸送手段など、コスト削減とサービス向上に役立つ現地の資本を巻き込んで行く姿勢が重要だ。
2)人を巻き込む
巻き込む必要があるのは、資本ばかりではない。BOP市場の消費者を流通プロセスに巻き込めるかどうかが重要だ。
HLL(ヒンドゥスタン・リーバ・リミテッド)が抱える大きな課題は、数億人の人口を抱えるインド農村部の半数以上に車が通れる道がないことだった。洗剤や塩といった家庭用品を最終消費者に届けるために、HLLはシャクティ・アマと呼ばれる販売・流通組織を構築した。シャクティ・アマは農村部に住む起業家精神に富んだ女性たちで、彼女らはHLLにお金を支払い、教育を受け、商品を仕入れ、近隣の農村に販売する。自動車が通れない道に対しては徒歩やスクーターを用いる。彼女たちの活躍によって、HLLは農村部に大きな市場を築くことに成功した。
こういった最終消費者に到達するためのラスト数マイルの流通は、BOP市場に雇用を生み出すという意味でも現地の教育・販売に寄与するという意味でも大変効果的な取り組みとなる。
巨大倉庫を保有し、仕入れ値を抑えることに成功しているカサス・バイアも、商品を配送する配達員は自社で雇用している。すべての配達トラックに、運転手1名と助手2名が乗車し、定められた日時に正確に荷物を届ける。配達員は厳しい教育を受け、礼儀正しく、清潔で、常に商品を慎重に扱う。こういった行動のひとつひとつが顧客との信頼を築き、リピートを促す要因となっている。運転手の離職率は3~4%と非常に低い。
システムではなく、人に投資し、顧客の信用と信頼を勝ち取ることは、商習慣に未整備な部分も多い、BOP市場で成功するための重要な要素のひとつといえる。
3)行政を巻き込む
以上のように、資本と人を巻き込むことができれば、行政を巻き込むことが可能になる。行政に関しては不信感を持つ地域もいるが、強い影響力を持つ行政機関もある。
前述のHLLは、パイロット地域でシャクティ・アマの募集と育成、販売体制を確立した後、地方を監督する行政機関にアプローチした。シャクティ・アマが地域経済に貢献した影響をまとめ、行政に協力を仰いだ。行政はそれに応え、まだHLLが入り込んでいない農村部の中からシャクティ・アマの候補となる人材を選び出し、仲介する活動を行った。
セメックスでは、セメントを購入するためにソシオと呼ばれる3人のグループを形成する必要がある。このグループを形成するという活動は結果的にクチコミが広まるのを助ける。また、グループ内で生まれる人間関係は、相互に支払いの規律を守り、緊急時に助け合うことを促進する。
—-
以上、マーケティング・ミックスの視点からBOP市場を開拓するにあたって注意すべき点を整理してきた。
次回は日本企業への提言、という形で日本企業がBOP市場で成功するために意識しなければならないことをまとめてみようと思う。
日本のメーカーの商品はBOP市場でもブランド品として出回っているという。品質ではトップクラスという認識が得られていることだろう。しかし一方で、BOP市場の消費者には手が出ない価格帯の商品も多いと思われる。コストを下げ、高品質で現地にあった財・サービスをどのように提供していくか。が一つのキーワードになるだろう。
また、「巻き込む」という活動がキーワードで出てきたが、真の意味で現地の人や企業、行政を巻き込めている企業がどれぐらいいるのかは大変気になるところだ。東欧やロシア、東南アジアに進出したIT企業などは業績を伸ばしていると聞くが、それらは労働コストの安い土地でサービスを開発し、日本に売るという、工場の海外移転のモデルと変わらない。
合弁会社をつくり、現地に根をはろうとする取り組みも多く見うけられるが、問題に直面していないだろうか。BOP市場を「巻き込む人材」は育成できているのだろうか。そういう視点から分析出来ればと思う。

コメントを投稿する